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INTERVIEWS WITH INVESTORS

(2016年 取材)

投資は for our company でなく、 for entrepreneur であるべき

長南 最近では、ベンチャーキャピタルだけでなく、大企業や大企業のCVCによるベンチャー投資も多くなってきましたが、田島さんはどのように見られていますか。

田島 事業会社の担当者はベンチャーキャピタリスト経験がある人が少なく、自社との事業シナジーを重視するので、ややもすると for entrepreneurではなく、for our company になりやすい構造ではありますよね。もちろん多様性はあってもよいと思いますが、ベンチャーキャピタルという職業は本来、 for entrepreneur であるべきというのは変わらないと思います。

長南 昔のCVCは自分たちの都合で投資することもあったと思いますが、最近は大企業の蓄積されてきた有形・無形の資産にベンチャーのサービスを乗せたりしていますよね。もちろん、大企業側は利益を求めていたり、大企業故の組織の論理など大人の世界はあるとは思いますが、ボランティアとまではいかなくても、大企業がベンチャーを心の底から応援することが多くなった印象はあります。それで、日本全体が活気づいてくれるといいですね。

田島 そうですね、大企業やCVCの方にもスタートアップを心底から応援していただいている素敵な方が本当にたくさんおられます。

もっと言えば、この業界はある意味狭いので、for entrepreneur ではない企業やVCは、やはり起業家から支持されにくいので、自然と淘汰されてしまうのかもしれませんね。for entrepreneurのマインドで投資に向き合う延長線上に、副産物としての自社との事業シナジーがあるというか。

大企業が偉いとか、スタートアップが偉いとかではなくて、両者は持っている強みが全く違うと思うんです。大企業は、資金面を含めたアセットは潤沢である一方、インターネットやテクノロジーにあまり強いところが少ない。その一方で、スタートアップはITやテクノロジーを知っているし、スピード感もあるけれど、資金が十分ではない。大企業とスタートアップがしっかりお互いの強みを理解し、協業することができれば、加速度的にビジネスを大きくすることが出来ると思っています。

投資家インタビュー Vol.12 ジェネシア・ベンチャーズ田島聡一氏 投資は for our company でなく、 for entrepreneur であるべき

長南 たしかに。大企業からするとそれほど大きくないお金でも、ベンチャーにとってはその企業の生き死にを賭けたものになりますからね。アメリカほどではありませんが、大企業からスタートアップにお金が流れ始めていますね。

田島 そうですね。それは間違いないですし、本当に素晴らしいことだと思います。僕は、自分の会社を除くと、三井住友銀行とサイバーエージェントの2社しか働いた経験がないですが、それぞれのビジネスの進め方や企業カルチャーが全く異なっていたことが、今となっては本当に良かったなと思っています。大企業とベンチャー両方のビジネスの進め方や、企業カルチャーのアウトラインを知っている。そこが自分自身の強みでもあり、バリューの一つだと思っています。

元銀行員のベンチャーキャピタリストから見た今の銀行について

長南 銀行の今後の役割については、いかがですか。歴史が長い分、取引先も多く、大企業から中小企業に至るまで相当な規模と金額の融資を行っていますが、保証人なしや担保不要の融資も増えつつあって。寄付型や共同購入型、更には投資型のクラウドファンディングも平成27年5月の金商法改正によって可能となり、ベンチャーや起業家に対する資金調達の選択肢が増えてきている上に、エンジェル投資家やVCも層が厚くなったような気がします。また、FinTechと言われるように、新しい銀行システムに取って代わるものになるのではないか、というところから、意識の変化が起こっているようにも思われます。しかしながら、過去の資産が多くて動きにくい部分もあり、まだまだ融資対象はベンチャーよりもレガシーな分野が多いですよね。

田島 銀行グループ内には、膨大な情報やデータが存在していますが、それらをしっかり使いこなせていない印象があります。Fintechは中国がおそらく最も先進的だと思いますが、Tencentが運営しているWeChatやAlibabaグループのAlipayなどは、彼らが提供しているアプリケーション上に、携帯電話料金のチャージ、公共料金の支払いなどから投資信託への預入まで、ユーザーのライフラインを支える様々な機能を提供しています。それらを通して、ユーザーの日常の様々なアクションをデジタルデータとして蓄積することで、日々変化するユーザーの信用スコアを算出するロジックを構築しています。つまり、静的な与信スコアから動的な与信スコアにシフトしている、ということが言えると思います。しかしながら、日本の銀行は、一部の銀行を除いて、BS/PLに依存した静的な与信スコアからまだ脱却できていない印象がありますね。 今の時代、銀行に関わらず、通信・出版・建築・不動産・医療・製造業・農業などさまざまな産業に広くデジタル・トランスフォーメーションが求められていると思いますが、これまでの成功体験をリセットし、これまで投資してきた設備投資や抱えているインフラもゼロベースで考えて、クライアント・ファーストの視点で最適なUI/UXを考え、それをスピーディーに実現していけるかどうかが明暗を大きく分ける、そんな時代だと思います。 変化できない大企業からすれば危機的な局面を迎えると思いますが、スタートアップにとっては、「既存産業×テクノロジー領域」には、大きな事業機会が多数存在していると思います。

投資家インタビュー Vol.12 ジェネシア・ベンチャーズ田島聡一氏

田島 聡一SOICHI TAJIMA

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ 創業者 兼 ゼネラルパートナー

三井住友銀行にて約8年間、個人向けローンや中小・ 大企業融資、シンジケーション・債権流動化等、さまざまな形態の資金調達業務に関わる。2005年1月、サイバーエージェントに入社し、事業責任者として金融メディアの立上げに参画後、サイバーエージェントの100%子会社であるサイバーエージェント・ベンチャーズにて、ベンチャーキャピタリストとして投資活動に従事し、多数の企業をIPO・バイアウトまで導く。 2010年8月以降は、ベンチャーキャピタリスト兼同社の代表取締役として、同社をアジアで通用する数少ないベンチャーキャピタルにまで成長を牽引。2016年8月31日、株式会社ジェネシア・ベンチャーズを創業。大阪大学/工学部卒。

投資家インタビュー Vol.12 ジェネシア・ベンチャーズ 田島聡一氏

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